ニュースレター11月号に書いた文章です。
先日古本屋で 能勢博「ウォーキングの科学」講談社ブルーバックス2019 という本を手に取りつらつら見ていました。
今となってはよくある、ほぼ常識に近い内容なのですが、特に運動強度のくだりについて、今まで患者さんにあまり正確ではないトークをしていたかもしれないなと思うところあり、要旨をまとめてみました。
・運動不足の生活をしているからだけではなく、加齢そのものによって筋力は低下する。30歳以降は10歳加齢するごとに5~10%ずつ低下する。体力が20代の30%に低下すると要介護状態になり、ひとりでトイレ・風呂に行けない状態になる。
・体力低下を引き起こすような生活習慣で、筋肉の不完全燃焼により気がつかないレベルの「慢性炎症」になっている。炎症は糖尿病や動脈硬化、認知症・うつ病などを引き起こす
・体力とは、持久力=最大酸素消費量(どれだけ酸素を取り込んで筋肉でどれだけ酸素を使うことができるか)および筋力のことである。
・運動形態を問わず、個人の最高酸素消費量の60%の強度を目標とした運動を行うと、年齢性別初期体力に関係なく、最高酸素消費量(=体力)は向上する。
・運動習慣のない中高年者なら、ウォーキングだけで十分に個人の運動強度の目標レベルに達する。
・具体的には最高酸素消費量の70%以上の速歩と40%以下のゆっくり歩きを3分間ずつ繰り返す。3分間を基準とするのは、大部分の人がこれ以上の継続を困難と感じるから。3分間の速歩の後に3分間のゆっくり歩きを挟む。×5セット ×週4回
要は週の合計で、早歩きの時間が60分以上になるようにする。これを5か月行えば体力年齢で10歳若返る。生活習慣病、気分障害、睡眠の質、認知機能、関節痛、骨粗鬆症も改善する。
・運動強度レベルのイメージ→背筋を伸ばし前の向いて大股で早足で歩いている。スピードは個人がややきついと感じる程度。胸の動悸が高まり、息切れがし、額の汗をぬぐう。5分間歩いていると息が弾み、動悸がし、10分間歩いていると少し汗ばむが軽い会話ができる程度。
・たとえ一日一万歩歩いても、最高酸素消費量の40%以下の運動強度ならほとんど体力は向上しない。乳酸が出るようなややきつい運動をして初めて体力が向上する。
・中高年者の最高酸素消費量の低下は、主に加齢による大腿筋力をはじめとする筋力の低下によって引き起こされるので、トレーニングによって筋力が改善すれば、それに比例して最高酸素消費量も改善する。
・要介護者であっても最高酸素消費量の70%以上の負荷で運動トレーニングをすれば結果が得られる。
「マッサージを受けただけで筋力がつくはずがないではないですか。多少はしんどい目にも合わないと良くはならないですよ。
とは患者さんに常々言っているのですが・・・。
この本で示された基準は中高年者向けのものですが、ひとつの判断材料として判りやすいし説明しやすいです。
身体の弱っている要介護者でも、要介護者なりにそこそこしんどい思いをしてもらわないと、体力の向上は難しいということですね。
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