ニュースレター4月号に書いた文章です。
がん末期の患者さん
末期がんの患者さんへの施術の依頼は時々あります。下肢の浮腫がひどくなり、だるくてつらいので少しでも改善して欲しいといったパターンが多いです。病気が進行するにしたがって、施術の刺激量はごくごく弱めに、負担のないようにしていくのが基本です。病気のせいですでにご本人様が疲れ切っていますし、浮腫が強いと皮膚も弱くなるので。
ですから肉体的な力を使うことはあまりないのですが、なぜかがん患者さんの施術後はぐったり疲れることが多いのです。精神的に気を遣うということもさることながら、気を吸われる(あるいは邪気をもらう?)かのような感覚があり、まさにこちらも命を削って施術しているような気分になります。がん患者だけを専門に仕事をしていたとしたら、さすがにちょっと身体がもたないかもしれません。
ホスピス病棟に訪問してマッサージをして欲しいとの依頼が来たことがありました。病院内での施術には保険がきかないので実費扱いとなりますが、医師(病院)が許可すれば訪問はできます。病院側も、ご本人様が望むならなんでも好きにさせていいですよ、というぐらいのスタンスなのでしょうか。
全身に転移しており余命は一ヶ月。しんどさを訴えるが、背部をなでてあげるだけでも喜ぶので、そこをプロにやって欲しいのだというお話でした。
お伺いすると疼痛管理の点滴を常にしたままの状態でベッドに寝たきりでした。がんの疼痛に苦しんで身体に力が入ったままで固まってしまい、ちょっと動かしたり触ったりするのでも痛みがでているような状態でした。この方の場合は下肢の浮腫はさほどでもなく、むしろ下肢の感覚は早々になくなってしまい、頸肩背部の不快感を何とかして欲しいとの要望がメインでした。
苦痛が強くてマッサージどころではない日もありつつも、ごくごく弱めでさすりながら、緊張し切った表面の状態を整えていくと、がんの辛さを紛らわせることはでき、気持ちが良く楽になったよと云ってもらえました。亡くなられる前日まで訪問しました。
誰に対しても非常に紳士的な方で、死の間際にいながらもネガティブな感情を向けたり爆発させたりすることもなく、常にまわりに気を使っておられました。がんの苦しみにのたうち回っている時ですら、「苦しい!苦しいよぉ~♪」と鼻歌に変えて歌ってみせたりして、最後まで格好のいい方で感銘を受けました。かくありたいものだ!などとも思いました。絶対無理だけれども。患者さんから教わることは多いものです。
オンコロモーション
オンコロモーションという言葉があります。オンコロジー(腫瘍学・Oncology)とモーション(動作・Motion)を組合せた言葉で、がんを治すという方向ではなくて、がんで動けなくなっている状態を少しでも改善していこうという考え方です。
痛くて動けないと訴えられたときでも、原因に応じた対応をすれば、運動機能が改善していくかもしれない。できる限り最期まで動ける生活を維持していくために、科学的な裏付けに基づいた運動やケアのプログラムが作成されています。
このがん患者さんへの運動指導のための運動プログラムを学び、試験に合格すれば「オンコロモーション認定指導員」の認定をするという話が進んでいます。鍼灸マッサージ師業界サイドも、苦痛を取り除いて運動機能を回復させていくのは得意分野なので、積極的に関わっていきたいと働きかけているという話です。
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