ニュスレター11月号に書いた文章です。
浮腫について
主に歩行が困難な方を対象にしている以上、ほとんどの患者さんには大なり小なり下肢のむくみがあります。日中ずっと車椅子に座って動かずに下腿をおろした状態でいれば、むくんでくるのも自然な流れです。下肢浮腫の変動は、患者さんのその日の状態を測るよい目安になります。浮腫が悪化していれば、最近運動していませんね?歩いていませんね?ということになりますし、実際に頑張って歩行しているとむくみはとれてきます。ただし普段起き上がるのがやっとな人の浮腫がなくなっていれば、起き上がって座ってすらいない、ずっと横になっていましたね?ということにもなります。それでここ数日の具合の良し悪しを想像していくわけです。
浮腫の鑑別に関して、まずは腫脹と浮腫の区別を見るといいます。腫脹は腫れている状態全般で、浮腫はその腫脹の中でも皮膚がつまみにくいとか圧迫痕が残るものとされます。なお圧迫痕が残らないタイプの浮腫には甲状腺機能低下症や蜂窩織炎、リンパ浮腫末期によるものがあります。
ついで全身性浮腫なのか局所性浮腫なのか。ただの廃用性の下肢だけの浮腫ならいいのですが、全身性の疾患のため浮腫が顔や手などにも出ている場合は、その原因が心臓、肝臓、腎臓、甲状腺などにある場合があります。心不全などでマッサージが禁忌のこともあります。もちろんマッサージを開始する時点ですでに医師の診断が出ているはずなので、それを意識して施術をすることになります。医師や看護師、理学療法士からの指示なり注意点などがあれば勿論それに従います。浮腫の原因がそれぞれの全身性の疾患にある場合は、マッサージが浮腫に対してできることは限定的になるかなと思います。
局所性の浮腫は静脈性、炎症性、リンパ管性に分類されます。たとえば片側の下肢の浮腫が急にひどくなり痛みや熱もある場合は、細菌が入った蜂窩織炎などの可能性、静脈血栓症、あるいは骨折という可能性もあるので、あえて触らずに速やかな受診を勧めます。特に深部静脈血栓症の急性期など、マッサージが禁忌な場合もあり要注意です。
下肢の皮膚(多くは下腿内側三分の一)に色素沈着を伴う浮腫は、静脈還流不全によるもので潰瘍化してリンパ浮腫を伴う可能性もあることを意識して施術します。
象の脚のような極端に膨らんだ浮腫の方も見ます。がん術後やがん末期のリンパ浮腫などは、いわゆるリンパドレナージュ的な、皮膚の表面をリンパの流れに沿ってさすっていくようなアプローチが適応になるのでしょう。
片麻痺の患者さんには麻痺側の上下肢によく浮腫がでます。麻痺のせいで筋委縮や運動量低下がおこり、筋ポンプ作用が失われているからでしょう。膝痛などで動かせない場合もしかり。浮腫があると関節がなめらかに動かしづらくなって、拘縮を引き起こしやすくなります。
浮腫に対しては心臓に向かって擦り上げたり、把握していったりするのだと学校では習いました。それも有効なのでよく使う手技です。リンパの流れを意識してリンパマッサージ的にするのもありです。しかし結果を出そうとするあまりつい力が強くなりがちで、浮腫で伸びきって弱くなった皮膚や繊維を傷つけてしまいがちなので注意が必要です。たかが10~20分のマッサージで、はい浮腫がよくなりましたね~というほどの力でやるのは、刺激量としては強すぎるのかなという感覚を持っています。ケースバイケースですが。
他動運動と組み合わせるのが一番安全で効果があるように思います。足の趾、足の甲、足首、膝、股関節を可動域いっぱいまで動かせるあらゆる方向にひたすら動かし続けると、目に見えて浮腫は改善しやすいです。強制的に筋ポンプ作用の運動をしているわけですから。
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