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tanaka

拘縮について(その3)

ニュースレター9月号に書いた文章です。

拘縮について(その3 寝たきりの場合・体幹上肢編)


今回は寝たきりの方の上半身の拘縮パターンについて。

肩は最も可動域があらゆる方向に広く、自由度が高い関節です。

それは逆に最も不安定な関節であるということにもなります。

その不安定さを数多くの筋肉がそれぞれ協力しあってフォローして、各方向への動きをコントロールしています。肩ほど多くの筋肉が関与する関節はありません。

がゆえに、その緻密な制御システムのどこにトラブルが発生しても、「肩関節」に動作時痛が発生します。

いわゆるスポーツ障害から五十肩、老化による肩関節周囲炎まで。肩関節は痛みやすいところなのです。


さて歩けなくなって寝たきりになると、肩を動かすことも当然少なくなって固まってきます。

寝たきり生活では肩を90度以上挙上する必要性がほとんどなくなり、せいぜいスプーンを口元に運ぶ程度動ければ支障なくなります。

当然使わなくなった機能は急速に退化していきます。

まず肩甲骨まわりのこわばりが増悪して、肩甲骨のなめらかな動きが制限されてきます。

100度ぐらいまでしか肩が上がらなくなるところまでは、割とあっという間に進行します。

逆にいうと肩関節拘縮の改善には、肩甲骨の動きの回復がポイントということになります。


寝たきりということは車椅子に座りきりということでもあり、座位が長いとどうしても猫背になりがちです。

立たないと体幹を大きく反らすという動作が難しいからです。

円背のポイントは胸が縮んで肩関節が前に引っ張られることと、頭が前に引き出されることです。

肩が前に出ると関節の軸がずれるため正しく動けず、そもそも挙上しづらくなります。

それに動作時疼痛も発生しやすくなります。


背中が曲がれば顔は下を向きます。

その姿勢で前を向こうとすれば、当然、顎が前へ突き出て上がります。

頭が体幹の重心から外れているので、その重さを支えるために頸肩部の筋緊張は増悪します。

動きの軸もずれてしまうので、頭を左右に回旋する動作にも制限がかかったり、痛みが出やすくなります。

円背になってしまうと上を向いて寝る姿勢が安定しなくなります。

むせやすいのか顔は自然と左右のどちらかに向きます。

胃ろうで喉を全く使わない方などは、横を向いたまま固まってしまうこともあります。


手指は自然な状態がすでに軽度屈曲位にあります。

なのでそのまま固まるだけで、もうちゃんと伸びなくなってしまいます。

ここもデリケートに緻密に動く関節なだけに、そもそもトラブルが起きやすい。

健康な人でも過度に使っただけで腱鞘炎にすぐなります。

そう考えれば、手指の拘縮には特に痛みが出やすいのも容易に想像できます。


上肢を軽く曲げて身体の前で手を交差させている状態。

そこから拘縮が進行して肘がどんどん曲がっていくと、その手はおなか→胸へと上がっていきます。そして最後には胸の前で腕をクロスさせて自分の首を絞め上げる勢いで固まっていきます。

こうなると腕で胸郭を押さえつけているわけなので、肺も膨らみづらくなり呼吸が制限されてしまいます。

体内を回る酸素量が減れば、あらゆる身体活動が停滞してしまいます。身体にとっても頭にとっても良いことはありません。

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